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前山フィールド講師紹介:戸井裕孝インタビュー

2021.08.20

こんにちは。ライターの小林繭子です。4月から、フィールド研修の講師を順番にご紹介しています。今回お話を聞いたのは、沖縄でツアーガイドとして活躍されていた経歴を持つ戸井裕孝さんです。

 

 

——戸井さんは、これまでどんなお仕事をされてきたんですか?

 

沖縄・西表島(いりおもてじま)でのツアーガイドが一番長かったです。ホテルで1年、ツアー会社で1年半ツアーガイドとして勤務した後に独立し、4年ほどフリーで活動しました。トレッキング、マングローブカヤック、シュノーケル、ナイトツアーなどを担当し、ホテル時代から年間100回以上ガイドをしていた「浦内川(うらうちがわ)」が得意なエリアで、「僕より詳しい人はいないんじゃないか」と当時は自負していました(笑)。

 

西表島は、南の島の楽園です。90%が原生林で、イリオモテヤマネコを中心とした豊かな生態系があります。いたるところに天然記念物や絶滅危惧種の植物、生き物が存在し、知り尽くしきれない場所でした。面白い生き物もたくさんいましたね。

 

——その中で、どんな生き物が好きでしたか?

 

森の中では「サキシマキノボリトカゲ」です。普通、トカゲは木に登りませんが、キノボリトカゲは木に登ってじっとしているんです。木と色が一緒だから隠れたつもりなんですけど、すぐ捕まえられてしまう(笑)。古いタイプのトカゲで尻尾が切れず、逃げられないんです。顔つきが恐竜みたいなのもいいですね。ちなみにイリオモテヤマネコの好物です。こういう話をするとキリがないんですけど(笑)。

 

——沖縄から香川に来られたのは?

 

沖縄でのガイドは天職だと思っていたんですが、結婚を機に地元香川に帰ってきました。仕事は何とかなると思っていたんです。でも、自分が希望する環境関係の仕事がなかなか見つからず、苦労しました。ずっとできる仕事を探していたので、ピンとこないときは1年で辞めるようにしていましたね。

 

転職を繰り返しながら、自分には何が向いているのかとずっと迷いがありました。転職を繰り返すなかで、離婚もしました。でも、単身になったことをきっかけに、ずっと気になっていた五名での林業研修生として一から林業に挑戦することになったんです。五名に住むことが条件だったので、それまでは応募するのが難しかったんですよね。その仕事も今年で4年目です。

 

▲五名で仕事をする戸井さん。薪は、年間で20kgの箱を5千箱ほど出荷する。

 

——五名では、どんなお仕事をされているんですか?

 

五名里を守る会」に所属し、草刈り機かチェーンソーを一年中持っているような日々です。林業が基本ですが、多角的に山の整備をしていて、すべてが繋がっていると感じています。春は薪割り作業、夏は草刈り。秋には栗拾いがありますが、それも草刈りから始まります。栗を集めやすいように、一定のリズムで山の斜面にそって草を刈っていくんです。五名内での魅力開拓として、滝や使われなくなったトンネル周りの整備もします。冬は広葉樹の伐採や春に薪割りしてから8か月乾燥させた薪の出荷作業がメインになります。

 

——林業のおもしろさって、どんなところにありますか?

 

「今日これだけやった」っていうのが目に見えることですね。あとは、木を倒す方向を間違えたら非常に危険ではあるのですが、狙ったところに木が倒れたらすごく気持ちいいんです。木の重心から考えると難しい方向に倒したい場合にどうやったら倒せるのか——それを考えてうまくいったときは、特にうれしいです。

 

▲4月の企業研修で、講師の一人を務めた戸井さん

 

 

——前山フィールドに講師として参加したきっかけは?

 

谷さんに誘われて、ピザ窯を作りに前山フィールドを何度か訪れていました。「今度前山で企業研修をするから、やってみない?」って声をかけていただいて。考える間もなく「やります」と答えていましたね(笑)。

 

講師をやると決めてから自分には何ができるのかを考え、伐採体験や生き物探し、炭焼き体験などのプログラムができてきました。他の講師の方たちも知っているメンバーだったので、みなさんのサポートをしながら学んでいけるとも考えています。

 

——前山フィールドでの4月の企業研修では、どんなことをしたんですか?

 

講師の一人である谷さんと組んで一日目を担当し、私のパートでは竹でご飯を炊く「竹飯」を作りました。参加者のみなさんと竹一本を切るところからやるんですよ。竹から器や箸も作り、お土産として持って帰ってもらいました。

 

▲前山フィールドで竹を切る研修参加者

 

竹飯一つを作るにも、ご飯を炊いているのを見ている人、箸を作る人など、役割があります。班の中で話し合って役割分担し、取り組んでもらいました。自分で全部やるのもいいけれど、誰かに任せるって大事だと思うんです。それが自然とチームビルディングに繋がっていく姿が印象的でした。

 

——みんなで一から作る竹飯、面白そうですね!竹でご飯を炊いて、燃えちゃわないんですか?

 

専用の竹の器を作ってお米と水を入れ、蓋をして焚き火台の上でごうごうと燃やすんですが、竹が水分を持っているため焼け落ちてくることはないんです。面白いですよね。竹が真っ黒に焦げたところで火を止めて蒸らし、味見をして完成です。大成功しておいしかったですよ。

 

▲竹でふっくらと炊けたご飯

 

他には、しいたけの菌を植える「植菌」体験をしました。ドリルで丸太に穴をあけ、ぽんぽんぽんと菌を打ち込んでいきます。しいたけは、菌を打ってから約一年半かけて育ちます。椎茸が出てくるころには、新人研修に参加したみなさんもぐっと成長されているんだと想像すると、より楽しみになりますね。植菌した木は会社に持ち帰っていただいて、みなさんが育ててくれています。

 

こんな風に、昔からやっていたことを体験することで本質的な「生活」を知ることが面白いプログラムになるんじゃないかと考えています。伐採体験や薪づくりもその一つですね。

 

▲丸太にしいたけの菌を植えていく「植菌」体験

 

——戸井さんが沖縄でやってきたガイドとはまた違ったものになりましたか?

 

西表島では島を研究し、動植物の解説をしながらご案内する形でしたが、前山では参加される方と一緒に何かをする・作る、というのが大きく違いますし、それが面白いところだと感じています。

 

4月の新人向け企業研修では、チームビルディングがテーマだったのもあって一人ひとりの個性が垣間見える瞬間がたくさんありました。山を通してそれぞれの得意や感性がわかり、どんな部署でどんなことをやっていきたいのかお話ができたり、輪ができていく様子が見れたり。参加者同士でお互いのいろんな面を知れるのはもちろん、僕にとってもその時間に立ち会えたことに意味があったと感じています。

 

——五名という自然あふれる場所に住む戸井さんにとって、前山はどんなところですか?

 

静かで隠れ家的なところですね。なんでもある都会的な生活とはまた違った、非日常を体験しやすい場所です。同じ香川の自然の中でも、普段暮らしている五名とはまた違うというだけで、五感が冴える感覚があります。真っ暗になるので、星もきれい。もっと前山に足を運んで自分なりに掘り下げて、より良いプログラムを作っていきたいです。

文=小林繭子(瀬戸内通信社)

 

戸井裕孝

沖縄県西表島にて6年間ツアーガイドを生業にし、ツアー作成からガイドまでを行っていた。現在は、香川の五名にて木の伐採・薪割り・草刈りなど林業の傍ら、香川県「海ごみリーダー」として香川の自然環境を守る活動も行っている。香川県主催の里海ガイド養成講座修了、瀬戸内観光ガイドを受講中。五名里山を守る会所属、五名薪ステーション責任者。

 

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