前山フィールド講師紹介:横山昌太郎インタビュー
こんにちは。ライターの小林繭子です。4月から、フィールド研修の講師を毎月ご紹介しています。今回お話を聞いたのは、「森さんぽ」やバードウォッチングのツアーなどで活躍されている横山昌太郎さんです。
——横山さんの活動のメインである「森さんぽ」について教えてください。
その季節ならではの自然を楽しみながら、森歩きの癒やし効果や様々な動植物・生態系についてをお話しし、約4時間かけて散歩をします。いくつか種類があって、夜明け前にスタートする「夜明けの森さんぽ」、雨の森を味わう「雨の日の森さんぽ」「繊細さんのための森さんぽ」など、6種類以上のプランがあります。基本的に、6人までの少人数制で実施しています。
——「繊細さんのための森さんぽ」は、どんな内容なんですか?
「繊細さん」と呼ばれるHSPは、人一倍敏感です。HSPだからこそ感じられる森の香りや音、内面の深さを大切にしています(HSP:視覚や聴覚など、感覚が人一倍敏感で外界からの刺激の影響を受けやすく、非常に感受性が豊かといった特徴を持つ人)。いろいろなことに気が付く分、大人数が苦手な方が多いので、こちらは3名までとしています。
私自身HSP傾向が強いので、これまでの実体験を活かして考えました。自分がHSPと気付くまでは、「なんでみんなみたいにできないのだろう」と自己肯定感が低かったんですが、これは自分の性質であり、個性なんだと知ったことは大きかったです。
生態系では、生物の多様性によって生物間の関係が複雑になり、何かが欠けても補填し合い、循環していきます。つまり、森の中では多様性が生態系の安定と循環を作っているんです。そんな風に自然について学ぶうちに、人間社会でも多様性が重要なんじゃないかと考えるようになりました。そうすると、自分の得意・不得意を含めた特性も大切な個性になる。この発想は、森のガイドや散歩で大切にしている「自分の感性や価値観を大切にして、自分らしく生きていこう」というメッセージにも繋がっています。
——自分らしく生きる大切さを伝えたいと思うようになったのは、どうしてですか?
少し長くなってしまうんですが、社会人になってからの経験が影響しています。大学で森林について学んだ後に、環境省に入りました。終電は当たり前、繁忙期は翌朝5時まで仕事をするような激務の状態で、心身共に疲弊してしまったんです。だんだんと何のために生きているのかわからなくなってしまって……。生きるのが辛くなるほど追い詰められ、35歳のときに思い切って退職しました。
いわばストレートでキャリア官僚になったものの挫折して、ドロップアウトしたんです。せいせいした気持ちの一方で、同期は頑張っているのに自分は……と考えることも多かったです。みんなのように頑張らなくては、立派な仕事をしなければ。それができない自分はだめだと、画一的な価値感に自分をはめ込もうとして、苦しんだこともあります。
それは森でいうと、苔が杉の木のように生きようとすることと同じで、無理があったんです。森の中では、苔は日が当たらない場所を求め、木は背を伸ばして高いところに葉を広げ、ツル植物は自立せず他のものに巻きつくなど、それぞれ違う生き方で命を繋いでいます。
森の生態系のように、無理をするのではなくもっと自分らしく、自分の気質に合った生き方をするのが良いんじゃないか——森でのこの気付きが、私を救ってくれました。自分が救われたように、生物や自然から自分らしく生きる大切さを感じてもらえるのでは、と考えたことが始まりです。
——横山さんは、森を通してこれだと思う生き方を見つけ出したんですね。「森さんぽ」は、具体的にどのようにスタートしたんですか?
仕事になるのかどうかわからなかったけれど、まずは一度やってみようと「夜明けの森さんぽ」を2019年に始めました。最初はどれくらい人が来てくれるのかも未知数でしたが、予想以上に申し込みをいただいて、手応えを感じました。参加した方がお友達を誘ってくれたり、多い人だと10回以上リピートしてくれたりと、少しずつ広がっていきました。
何度も来てくださる方がいたのもあって、内容を少しずつ変えたり、より良いツアー内容を意識して工夫しました。翌年の2020年には様々なツアーを打ち出して、まずは参加者の満足度による自由料金制として活動。2021年にはその結果からツアー料金を決め、本格スタートしました。今なお試行錯誤しています。
——「森さんぽ」といっても数種類あって、何度も参加してみたくなりますね。
普通に森を歩くだけじゃなかなか興味を持ちにくいんじゃないかと考え、ツアーによっては非日常感や、生き方を考えてみる内容などを加えてみたんです。最初はどんな人が来てくれるのかあまりイメージがついていませんでしたが、街中に住む方の参加が多いですね。「夜明けの森さんぽ」はすごく気持ち良いですよ。日が昇っていくにつれ、森の中の景色、音、空気感がどんどん変わり、その変化の面白さを体感できる散歩です。
——前山フィールドでの横山さんの担当は、どんな内容になりそうですか?
前山には川もあるので、普段活動している大川山とはまた違ったガイドができることが楽しみです。森は、環境保全や防災として水を貯えたり、水を浄化して川や海に流していく機能を持っています。ただ森があるというだけではなく、川、海といった地球レベルでの循環の位置づけや水との関りを感じるのにはとてもいい場所。水もとてもきれいなんですよ。前山には何度か通って歩き回ったので、細かい内容はこれから組み立てていきます。森や山は素材で、切り口次第でまた見えるものが変わってきます。いろんな見方や体験ができるように考えるのも面白いですね。
——横山さんにとって、今の働き方はいかがですか?
ドロップアウトした経験もあり、何のために働くのかはずっと考えてきました。今は詰め込みすぎないよう、ツアーや森の散歩を月15回ほど開催しています。他にはブログを書いたり、草刈りをしたりと、無理せずいくつかの小商いをして、食べていくには十分な生活をしています。働くことは世の中に貢献することであり、社会に関わること。自分に合った働き方で、できれば一生仕事をしていたいです。
文=小林繭子(瀬戸内通信社)
横山 昌太郎
名古屋大学農学部林学科にてニホンジカによる森林荒廃の調査・研究を行い、 大学院中退後、環境庁(当時)に入庁。国立公園の許認可業務や自然保護官などに携わる。9年後に退職し、民間で10年ツアーガイドとして勤務。森の案内やツアー企画、ガイド養成講師などを担当。より地域に根ざした生活と活動を目指し、2016年香川県に移住。現在はフリーランスとして森歩きのガイドツアーなど様々な仕事・活動を行っている。農学博士、森林インストラクター。
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