谷さん、コミュニケーションを学ぶって、あざとくないですか?
こんにちは、4月からスタートしたコラムを担当するライターの小林繭子です。ウェブメディア【瀬戸内通信社】のライター&編集長などをやっています。谷さんから「読みものを増やしたいんやけど、繭子ちゃんやってみない?」とお誘いいただいて、二つ返事で担当することになりました。今回は、谷さんにあれこれとお聞きしたいと思います。
——さまざまな活動をされていますが、谷さんってつまるところ何者なんですか?
いきなりですね(笑)。コーチングやファシリテーションの講師や講座の運営、団体研修プログラムの提供が主なところです。私自身がファシリテーションをすることもありますよ。
——コーチングってよく耳にはするものの、実はよくわかってない私がいます。
ざっくり説明すると、コーチによる質問で話を引き出したり思考を促し、言語化することによってそれを整理すること。そして、ゴールに向けてアクションプランを一緒に立て、PDCAを回していくサポートをすることです。思考ってそもそも整理されていないから、それをコーチがお手伝いする感じですね。私自身がコーチングをするというよりは、コーチングスキルを身に付けたいマネージャーやリーダー層のお手伝いを得意としています。
——いわゆる1on1など、会社組織のマネジメントでも活用されていますね。実は、コーチングって胡散臭いなぁと思っていました(苦笑)。
正直だね(笑)。私も最初はそう思っていたから、気持ちはよくわかります。コーチングはコミュニケーションスキルの一つ。自分を変えようとか、自己実現を、みたいな大それたことではなく、普段のコミュニケーションをちょっと良くすることで、自分のあり方や周りとの人間関係など、いろんなことを少しずつ良くするっていう考え方を大切にしています。
▲「書いた方がわかりやすいかな」とホワイトボードに整理してくれる谷さん
——なるほど。私は「コミュニケーションを学ぶ」って聞くと、あざといかなと思っちゃうんですよね。あとは、自分の駄目なところを直視するのを恐れてしまったり。
変化ってちょっと怖かったりもするもんね。ただ、何をするにもコミュニケーションはつきもので、我流では壁にぶち当たることがあると思います。さまざまな考え方や手法を知っておくと、解決できることもある、そんな風に考えてもらえたら!コミュニケーションって当たり前にしているけど、実は習う機会がほとんどないんです。意識的に聞く姿勢を変えると、コミュニケーションはぐっと良くなるんですよ。
——例えばどんなことでしょう?
例えば、質問が詰問にならないようにすることや、相手に答えてもらったら、まずはそれを受け止める姿勢が大事。相槌を打つとか、復唱したりすることですね。「あなたの話を聞いているよ」っていうことが伝われば、雰囲気が柔らかくなって、話を引き出しやすくなります。
——確かに、「聞いてくれているな」っていう安心感があると話しやすいですね。続いて、ファシリテーションについても教えてください。
簡単にいうと「促進すること」で、会議の進行役もその一つですね。複数の人がいる場の活動を促進し、参加者から話やアイデアを引き出して纏める、これもコミュニケーションのスキルです。でも、ファシリテーターが一人で進行するのではなく、全員で良い場にすることが大切です。
——全てを担当するファシリテーターはやりたくない、と思っていました(笑)。
良い場にするためには、全員が主体性を持つ工夫や役割分担が必要です。どうしていいかわからなければ、どうしよう?って投げかけて、みんなでなんとかするのも良い形ですよ。
——谷さんは、ずっと今のお仕事を?
この仕事は31歳のときに始めました。もともとは新卒で建材商社の会社に入り、営業を担当していたんです。夜中までの仕事が何カ月も続くこともあって、ふと結婚しても続けられる仕事だろうかと悩み、5年目に退職してオーストラリアのワーキングホリデーへ。正直、一度仕事から逃げたかったんだと思います。約1年過ごして帰ってくるまでの間に、唐突に人生は有限であることに気付いたんです。
——突然ですね。
ビザが1年だったので、3カ月たった頃にもう1/4過ぎたのか、早いな~と。あれ、あと30回くらい日曜日を過ごしたらもう帰国じゃん、って(苦笑)。時間も人生も有限だって初めて気が付いて、今後何をするのか真剣に考えた結果、特許翻訳家になろうと決めました。一生食べていけそうだし、これから伸びる職種だと思ったんです。
帰国後は翻訳の学校に通うための準備期間として、2年で辞めるつもりで会社員として事務と営業の仕事に就きました。でも、事務の仕事が2日続いたときに、あまりの苦手さに途方に暮れて……。私、事務仕事が本当にできないんですよ。
——特許翻訳家って、事務仕事メインなのでは?
そうなんです。そういえば「特許翻訳家は向いてないと思う」って周りのみんなに言われていたなと(苦笑)。その頃、たまたまコーチングの本を読んでいました。良いことが書いてあるなとか、なんとなく概要は把握しつつも、それ以上は特になくて。しばらく後に「コーチングで人の話を聞いて目標達成を支援する」っていうのを見かけて、「人の話を聞くことが仕事になるのか、これなら私にもできそう!」と3年で学べる、電話(テレクラス)で学ぶコーチング講座を受けてみました。
講座は基本的に電話でしたが、年に数回集合研修があり、だんだんとコーチング関係の知り合いが増えていきました。別の勉強会に誘われて参加したり、既に活躍している人の研修を見学させてもらったり。そんな中、ある講師の方にこれからどうするのか聞かれ、「いつか独立したいと思ってはいるんですけどね~」ってぼんやり答えたら、「谷さん、草野球ばっかりじゃプロのマウンドには立てないよ」って言われて。そっか確かに!と独立したのが、31歳のときです。
——唐突ですね!会社を辞めるとき、不安はなかったんですか?
当時、会社の中で小さくコーチング部門を立ち上げ、数回ですがコーチングセミナーを担当することもありました。でも、営業がメインだったのもあり、コーチング事業に時間を割けないなと思ってはいたんです。駄目だったらなにかしら働けばいいし、失業保険もあるし、何とかなるだろう。そんな感じで、きちんと見通しを立てずに独立しちゃったんです。
ただ、独立することは周りにどんどん伝えました。そうすることで、企業の方をご紹介いただいてご縁ができたり、これ応募してみたらと言われ、よくわからないまま応募して起業家支援のアドバイザーになったり。人事制度の勉強会に行ったら、隣の人から研修の相談を受けて仕事になったりと、ありがたいことにスタート時からいくつか仕事が入っていました。最初は先輩のコーチに聞いては調べてを繰り返して、どうにかこうにか対応していた、という感じでした。
——仕事が突然なくなるような時期はなかったんですか?
2年目にぽっかり暇な時期があったんですが、どうせ暇なら、と着付け教室に通いました。そんな風に興味の赴くままにあれこれ動いていたら、新しい出会いが繋がっていきました。 純粋に、ご縁や機会に恵まれていたと思います。逆に、自分で営業してもうまくいかなかったんです。元々営業職だったのに、自分を売り込むのが下手で(笑)。いろいろな人に会いに行く、学びたいことを吸収しにいく。そんなアクションの先に次の広がりがあるはず、漠然とそう思いながら動いていました。
——自ら手を挙げたり、切り開いていくタイプ?
いえいえ、これが完全に受け身なんです。好きにしていいよって言われると困るけど、「これやる?」って聞かれたら、「面白そう、やる!」って答えちゃいます。私の中に、断るっていう選択肢がなかったんですよね。よくわからなくても、受けてから考えていました。「その仕事よく受けたね」って言われるくらい、躊躇してこなかったんです。最近は自分のこともわかってきて、「これは私じゃない方がいいんじゃないかな」という案件はお断りをしたり、他の方にご紹介することもあります。
——受けてみたものの、困ったこれはわからないぞ、といったことは?
わからないときは、とにかく人に聞きます。よくメソメソ泣きながら相談もしました。「こんなの私には無理です……(泣)」とか言いながら(笑)。人事や教育関係の用語もよく分からなかったので、関連図書を沢山買って、そこからヒントを得るようにしていました。それでもわからなかったら勉強会や講座に参加する、というのを繰り返して。
初期の頃は失敗もしたし、反省しかないですね。でも、引き受けてなかったら、わからないままのことばかり。「やってみない?」に応えていく積み重ねで進んできた感じです。考えたら、すごくラッキーだったと思います。
——私、ライター3年目なんですが、谷さんのやり方に近いような気がしています。やったことのない仕事でも「チャレンジングですがやります」とお仕事を受けて進めてきました。これでいいのかな?ってときどき不安になることもあったんですが、お話を聞いて、未知にチャレンジしたから今があるって思えてきました。
ここにも仲間が(笑)。もはや全方向に足を向けて寝られない状態ですが、まだまだ知らないこと、分からないことがたくさん。これからも人の手を借りながら、いろんなチャレンジを重ねていきたいと思っています。
文=小林繭子(瀬戸内通信社)