前山フィールド講師紹介:岡 加依子インタビュー
こんにちは。ライターの小林繭子です。4月から、毎月フィールド研修の講師を順番にご紹介しています。今回は、ラジオパーソナリティの岡さんにお話をうかがいました。
——どのようにラジオパーソナリティのお仕事に?
香川で生まれ育ち、大学進学を機に東京へ出て、演劇をやるようになりました。大学4年生のときに劇団を旗揚げし、そこから5年間はアルバイトをしながらの生活。就職するつもりもなかったし、芝居で生きていきたいと思っていました。
25歳の頃、大学時代の友人と再会したら、みんながらっと変わっていたんです。就職し、社会でもがきながら生きる彼らと変わってない自分の差に、愕然としました。自分が好きなことをやれているし、役者の活動は楽しいし、やりがいもあったけど、いつメジャーなお仕事ができるんだろう、いつアルバイトを辞められるんだろうって考えだしたらきりがなくて……。
そこからは、今思うと半ば家に引きこもっていました。東京は生活費もかかるし、働きに出ないことで親に家賃を払ってもらうようになったり。申し訳ない、心苦しいっていう状態が何カ月も続いて、実家からは「一度帰ってきたら」って言われもしました。その時は、東京から香川に帰ることが負け犬みたいで嫌で、そんなプライドのせいですぐには帰れませんでした。
でも、東京で一緒に住んでいた弟が就職で引っ越すことになり、自分一人で住み続けるのは難しくて、香川に帰ることにしました。香川では、毎日近所を散歩するか、家の畑や田んぼをお手伝いするくらいの日々。そんな時、弟がたまたまFM香川のパーソナリティ募集を見て、「姉ちゃんずっとラジオ好きだし、演劇やってたのも面白いから受けてみたら?」って言われて。なんとなく応募したら、受かったんです。
——ニートのような日々から、突然ラジオのパーソナリティに。
演劇の発声練習はやっていたけれど、アナウンス技術はゼロでした。試験に出た香川のことも全くわからないし(苦笑)、絶対落ちると思っていたので私が一番びっくりしましたね。後から聞いた話ですが、開局20周年だし変わった子を入れようっていう感じで、それまでの正統派とは全く違う私になったそうです。人生なにがあるかわからないですね、ありがたいことです。
——喋るお仕事をされている岡さんが、前山フィールドに関わるようになったのは?
食いぶちを増やしたくて「かがわ里海大学」を受講したり、喋ることに関する新たな勉強がしたいとファシリテーション講座にも通ううちに、講師の谷さんと親しくなって。「実家の山を野外研修施設にしようと思うから、一回みんなで遊びにいこう」って谷さんから聞いて、他の講師の方たちと共に前山フィールドに行きました。
すごく良い場所だな、と思っていたら谷さんから「岡さんもなんかやってよ!」と言っていただいて、なにができるかイメージついてなかったけれど、「やりたいです!」って即答しちゃいました。とはいえ、アウトドアガイドの第一線で仕事をしている方々の中で、私になにができるんだろう、とそこからずっと模索してきました。
——前山フィールドでの岡さんの担当内容は、どうやって決めたんですか?
子どもたち向けの演劇ワークショップのお手伝いをしたことがあって、これを大人向けにしようと思いついたものの、谷さんからは「実は私こういうのやるの恥ずかしいんだけど、みんなはやりたいものなのかな……?」って言われて(苦笑)。悩んでいたら、NiCO☆1の山田さんが「生業にしてるんやから、“喋り”をやったらええやん!何を悩んどん?」って言ってくれて。自然の中で喋るっていうのが最初はぴんとこなかったけれど、これをきっかけにプログラムを考えました。
——人に言ってもらったことがきっかけなんですね。実際には、どんなことをするんですか?
一つは、発声練習。喋ることに関する悩みに合わせて、内容は決まります。大切なのは大きな声よりも、言葉を正確に発音すること。最近では、マスクをしていることで伝わりにくくなっていたり、顔の筋肉を動かすことが減りがちです。顔を大きく動かしたり、母音の大切さなどの豆知識を盛り込みながら、声を出すことを気持ち良いって思ってもらえたらうれしいです。
二つ目は、詩を朗読すること。川のせせらぎ、風で木が揺れる音、鳥の鳴き声……そういった自然のBGMの中で言葉を出すと、室内にはない心地良さを感じます。三つ目は、情景描写。自分が見たもの、感じたことを言語化します。例えば、何が見えて、どんな音や匂いで、こんな触り心地で、どういう気持ちになるのかを、自分の言葉で伝えるんです。他には、大人版「未成年の主張」!前山フィールドを見渡せる崖で、テーマを決めて叫びます。
——気持ちよさそう!大人になってから大声で叫ぶなんて、ほとんどないですよね。3月に一般公開したオープンフィールドでは、どんなことをやったんですか?
1時間だったので、簡単な発声練習をしてから山の中に椅子を並べて、森にまつわる歌詞など、前山フィールドで読むのにぴったりな文章を選び、参加者に朗読してもらいました。声が良いかどうか、上手かどうかなんて関係なく、伸びやかに、自由に声を出すことを楽しんでもらいました。
みなさんの心地よさそうに朗読されている様子が印象的でした。「朗読する人によってイメージが変わる」、「他の人の朗読を聞くのもおもしろかった」なんて声もあって。参加者同士で感想を伝え合うことも大切です。リアクションをもらえるってうれしいですよね。
——普段朗読をすることがないから、新鮮な体験になりそう。
音読は自分に向けたもので、言葉をただ音にするだけなんです。朗読は、誰かに伝える、届ける気持ちが湧いてきます。こちらからなにも言わなくても、参加者の方が誰かに語りかけるような喋り方をしてくれていました。朗読は、コミュニケーションにつながるんです。
——朗読するときに大切にされていることは?
声から情景が浮かぶようにすることです。そのために、明確なイメージを持つようにしています。どんな想いで書いたんだろう、どんな風景なんだろう、と頭の中で膨らませたり。自分の中にはない表現を口に出すと、新たな言葉や表現が入ってきて、それが自分の言葉、表現になると思います。なので、時間ができたらいろいろな文章を声に出して、インプットするように心掛けています。
——聞き取りやすい声を出すためのコツを教えてもらいたいです。
ストレッチとか、身体を動かすことかな。声って、口周りだけで出しているイメージがあるけど、身体全体を使って出しているんです。それをイメージすると、自然ともっと身体を使えると思います。ちょっと背伸びをしたり、屈伸をするだけでも声が出しやすくなります。朝にラジオ体操をやるのもいいですよ。
自然って、人の手が入ってないものをイメージしますが、山ならすぐ雑木林になってしまうし、伐採をせず日の光が入らなければ、次の木が育ちません。前山フィールドは、谷さんのお父さんが丁寧に手入れされていて、心地良い、過ごしやすい場所になっています。その場所の力を借りながら、声を出す面白さや気持ち良さ、朗読を通したコミュニケーションをぜひ体験してもらいたいです。
文=小林繭子(瀬戸内通信社)
岡 加依子 KAYOKO OKA
フリーランスとしてラジオDJ、ナレーター、イベントMC、演劇など幅広い分野で活躍中。ラジオDJデビューから現在まで、14年間毎週3時間の生放送番組を担当し、その時間はのべ4000時間以上。 学生からミュージシャン、クリエイター、スポーツ選手、企業、 農家など多様な3000人以上にインタビュー、取材を行う。2020年から里海プロガイドとしても本格始動。
<前山フィールド講師紹介>
4月紹介:NiCO☆1インタビュー